「100年後の地球に何ができるか」大きなビジョンのもと、個人の価値観の言語化や、次のアクションに繋がるロードマップを作成
Client
東京大学One Earth Guardians 育成機構
●東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授 中西 もも 様(写真右)
●東京大学 大学院農学生命科学研究科 助教 岩崎 茜 様(写真左)
地球上の生物との共存共生と、その利用を目指す「実学」としての「農学」の原点に立ち返り、100年後の地球のことを考え、行動する科学者たち「One Earth Guardians(地球医)」を育成する新しい教育プログラムを展開しているのが、東京大学 One Earth Guardians(以下、OEGs)育成機構です。
今回はそのプログラムを支える運営事務局のアドミニストレーターである、中西 もも様と岩崎 茜様にお話をうかがいました。
MOONSHOT WORKSが提供する起業家育成プログラム「スキルCUBE」のチームビルディングワークショップ「ComoHana」(コモハナ※)を通じて参加者がどのように進化したのかなどの事例も紹介します。
MOONSHOT WORKSが提供したソリューション
ー「スキルCUBE」のワークショップ「ComoHana」コモハナを通じて
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個人の価値観の言語化
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チームの共通価値の発見
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具体的なロードマップの作成
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現在進行中
ー得られた成果
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チ ーム内の相互理解と信頼関係の深化
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2028年に向けた5カ年計画の策定完了
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具体的な行動計画の立案
中西 もも 准教授
「今回のワークショップでは、それぞれが何を大切にしているのかを言語化しました。そうすると、自分自身の中でクリアになるだけでなく、ほかのメンバーに共有されることで、自分が大切にしていることを相手も知っている、大事に思っているんだという共通認識による安心感や信頼感が醸成されました。」
岩崎 茜 助教
「特に印象的だったのは、日ごろは意識して目を向けることのない潜在的な価値観を言語化する過程です。それは自分と向き合うというある種の苦しみでもありましたが、同時にチームのメンバー同士の理解が深まる喜びもありました。」
これからの「地球」を考える
OEGsの立ち上げからこれまで実務を担ってきた中西もも 様(准教授)
中西:
私はプログラムが立ち上がった当初からOEGsにアドミニストレーターとして携わり、7年ほどになります。自分自身も東京大学大学院農学生命科学研究科の出身で、もともとはバイオロジーの研究をしていましたが、科学と社会をつなぐことに貢献したいと思い、URA(University Research Administrator)として活動するようになりました。
岩崎:
私はOEGsに着任して約1年半になります。もともとサイエンスコミュニケーションという、科学と社会の間をつなぐような役割を仕事としたいと思い、大学院を出てからその分野の仕事に10年以上携わってきました。その中でOEGsに出会い、社会を巻き込んでコミュニケーションをとりながら地球のことを考えていくプログラムで、まさに自分自身のキャリアと重なりを感じたことから、事務局のメンバーに加わりました。
中西:
人の生活を支えてきた農学がこれから果たすべき役割として、いかに環境調和的に、人間だけが良ければいいのではなく、他の生物も共存共生できるような形で人の生活を続けていくかを考えて実行していく学問にしていく必要があるのではないか。そんなミッションを意識しながら2017年12月にOEGsが始まりました。
多様性のあるチームづくりをするきっかけに
岩崎 茜 様(助教)
中西:
OEGsは「100年後の地球」を見据えた活動です。数十年単位では短かすぎ、近視眼的にならずに未来を考えて行動していく必要があるという考えからです。実際に動きはじめてからは、大きな理想を目指しつつ、どのように進めていくかという詳細なプランを立ててから実行するというよりも、目の前の課題を一つひとつクリアしながら積み重ねてきたという、まさに走りながら作ってきたイメージです。
岩崎:
もともと農学部・農学生命科学研究科の中でも分野横断的なプログラムでしたが、2022年からは東京大学の全学部と研究科に受講対象者を広げました。また、企業や団体の方ともこの7年である程度継続的な関係ができて、関わってくださる人の数が多くなり、活動の幅が広がり、事務局としてもやるべきことが増えたタイミングで私もメンバーに加わりました。
中西:
さまざまな背景や想いを持った方に関わっていただくプログラムなので、その広がりに対応できる組織体制にする必要も出てきたのです。2022年度から「Good Life on Earth」という高校生・大学1-2年生向けのプログラムも新たに始まってそのスタッフも増えましたし、この春からは、昨年度まで受講生としてプログラムに参加していたメンバーがアドミニストレーターとして加わりました。
そうした背景があった中で、OEGs主催のシンポジウムに参加者として来ていただいたMOONSHOT WORKSの藤塚さんに出会いました。イベント後も直接、大学を訪ねてきていただきディスカッションをしていく中で、私たちが課題に感じていた点を整理し、未来へつなげるワークショップを開催いただこうということになったのです。
岩崎:
私たちは普段、ワークショップを主催する側になることが多いので、まずは好奇心でどんなものなんだろうと思いましたね。
中西:
そうですね。「コモハナ」というワークショップをご紹介いただいた時に、私たち自身も試行錯誤しながらさまざまなワークショップやっているので、面白そうだと感じました。新しいメンバーも事務局に入ってくるというタイミングだったので、改めてお互いの価値観を知ることで、多様性のあるチームづくりにつながったらいいなと思いました。
潜在的な価値観を言語化することで、安心感を醸成
中西:
具体的には、約3ヶ月のワークショップを通じて、自分たちの価値観や判断軸を言語化し、OEGs設立10年目となる2028年に向けた事務局のミッション、ビジョン、バリューの構築、目標を実現するための戦略とロードマップなどを作っていきました。
岩崎:
実際にワークショップを体験してみて、最初の印象は、自分と向き合うのは苦しいという気づきを得たことでした。普段はワークショップを設計し運営する側なので、自分自身の思考や価値観に向きあう機会はあまりありません。ワークにあたりまず、設問が10項目ありそれに対して3つずつ自分の答えを出していく作業をしたのですが、最初はなかなか項目が埋まらなくて……。
中西:
そうですね、純粋に参加者になるのは新鮮でしたね。コモハナワークショップの最初に目的を話されたとき、個人 の価値観からチームの価値観ができて仕事につながるという感覚は、私自身は自然なこととして認識していましたが、今回参加した4人のメンバーの中でも当たり前ではなかったことに気づけました。
岩崎:
ワークショップの初期の頃に、チームとして大事にしたいことが結構出てきた気がしましたね。
中西:
OEGsのプログラム全体としてというより、プログラムを推進していく事務局のチームで何を大事していくかを見つめていく時間になりました。
岩崎:
今まではメンバーがお互いにどう思っているのか、普段の様子から汲み取るしかなかったので、それを言語化して明確にして、共有することができたのがよかったです。
中西:
みんなの価値観を聞くなかで、初耳で驚くということはあまりなかったように思います。皆が潜在的に思っていたことが、今回のワークショップで言語化することで、自分の中でクリアになり、他の人にも何を大事にしているか伝わり、私だけじゃなくてみんな大事に思っているんだなっていう共通認識ができることによる安心感や信頼感が醸成されたと思います。
また、ロードマップを作成するワークショップでは、今まで「これをやりたいよね」「こういうの欲しいよね」と常々口に出してはいたけど、そのために考えて動いていかないと実現しないという当たり前のことを改めて意識できました。実現するためのステップとして何が必要なのかを整理できました。
OEGsに関わっている人が楽しく、ハッピーに
岩崎:
コモハナ自体は、一緒にワークを体験した事務局のメンバーのことをより深く知ることができたという良さを感じました。ただ、そうして得たものを普段の業務やOEGsのロードマップにどのようにつなげるかは、まだ私自身がわかっていないことも多いのが正直な感想です。今後も長く続いていくプログラムなので、これから少しずつ消化していきたいと思います。
中西:
OEGsは100年先を見据えた息の長いプログラムです。そもそも教育や人材育成には、KPIのような指標を導入するのが難しく、ここまでできたら目的達成といったポイントが見えづらい活動だとも思います。だからこそ大事にしたいのは、関わっている人が楽しくハッピーでいられることだと思っています。もちろん使命感や危機感をもって始まったOEGsではあるんですけど、私たちも含め今関わっている人や、これから関わる人たちが、「OEGsに参加するとなんだか楽しい、充実感がある」と思えるような進め方をしていきたいですね。
いろいろな人が関わってくださるプログラムなので、そのハブ的な立ち位置にいる私たち自身が、何を大事にしているかしっかり見つめ直してお互いの共通理解を握り合えた今回の体験は、今後新しい活動をしていく際にも安心感を持って踏み出せる土台ができたということなのかなと思っています。
岩崎:
そうですね。お互いを知って安心感を持っていることで、新しいことにも挑戦しやすいと思います。
中西:
今回はこのように藤塚さんとのご縁も新しくできたわけですが、いろいろな関係者とどういう形で今後もご一緒できるかを考えていくことも一つのミッションです。立ち上げ当初はほとんど誰にも認知されていない活動だったのが、だんだんと企業や団体とも継続的な関係を構築できてきて、OEGsの志に賛同いただいた方同士がつながるプラットフォームになるフェーズにきているのかなと思います。
また、受講生の中にも自分発信でいろいろな活動をする人が増えてきているので、どのように支援していけるかを考えるのもとても大切なことです。その上で、事務局も新しいメンバーが入ってきて、今後どのようにパワーアップして進んでいけるのか、それが課題であり、一番の楽しみでもありますね。
取材後記(MOONSHOT WORKS代表 藤塚より)
-なぜ今、組織の「根」を育むことが重要なのか
OEGsのシンポジウムに初めて出席した際、とても感動したことを覚えています。私自身、企業や自治体の新しいプロジェクトにいろいろ携わってきましたが、学生と企業がコラボしながら「地球の100年先」の視点で動いている姿を見たからです。今までビジネスサイドにいたからこそ、全く違う感覚を得ることができ勉強になりました。また、OEGsに関わる教授や事務局の方々にはとてもフランクに接していただき、今まで教育機関として敷居の高いイメージがあったのでいい意味でギャップを感じたのです。
その後も何回かOEGsのイベントに出席し、私自身もこの素敵なプロジェクトに何かお役に立てることはないかと想い、ワークショップの企画・運営などで関わることになったというのが経緯です。
実際にワークショップを提供してみて、実はとても気づきがたくさんありました。今回、お二方をはじめ、普段ワークショップを提供している側の方々でもあったので、普段のお客様からは来ないような鋭い質問をたくさんいただいたからです。ここはもっと丁寧に説明した方がいいなとか、プログラムをわかりやすく設計した方がいいなとかです。
そんなやり取りをしながらできたロードマップは、自分たちや周りの人との約束みたいな感じで、何かに迷った時の軸であり、自分たちが戻る場所になります。必ず書面にも残しているので、あとで確認した時にこうだったよねと振り返って欲しいですね。
今回は、約3ヶ月にわたるワークショップとディスカッションを通じて今後につながるかなりハードルの高いビジョンができたので、皆さんにとってはチャレンジだと思います。私自身はとても良い経験になったので、これからも続くOEGsさんの挑戦に、MOONSHOT WORKSも共創という形でご一緒できると嬉しいですね。
東京大学OEGsの事例は、長期的なビジョンを持つ組織にとって、 基盤となるチームの価値観を明確にすることの重要性を示しています。
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多様性を強みに変える
→ 異なる背景 を持つメンバーの価値観を統合 -
イノベーションの土壌を作る
→ 共通の目標に向かって自由に発想できる環境の構築 -
持続可能な組織づくり
→ 100年先を見据えた人材育成と組織文化の醸成
※1ComoHana(コモハナ)
“ComoHana”(コモハナ)はMOONSHOT WORKS社が提供する社内起業家育成プログラム「スキルCUBE」のメニューの一つです。ComoHanaの、"Como"はスペイン語で「共感」を、「Hana」は日本語で「花」をイメージしています。このプログラムは、共感の力でチームを育み、個々のアイディアや可能性を美しく花開かせることを目指しています。